こちらは職人、ただいま交信中!

いきていく物語です。

気が向いたときに、思ってることを書いていきます。
相互に「交信」をする場です。コメントおよびトラックバック歓迎です。
主に鉄道と飛行機を利用する旅人です。
2008年にoneworld Sapphire、2016年にStar Alliance Goldのステイタスを取得。これらを有効に活用した空の旅についても発信していきます。
日本国内の無線従事者資格や、関連資格の多くを取得しており、その受験記も蓄積しています。
内容には誤りがないよう努めますが、誤りがないことの保証はいたしかねます。

日記

某公共放送協会さんの内覧会として雑誌報道では知られていたイベントではあるが、今回一般公開とのことで参戦。以前はテントがあった場所なのだが、常設の建物に化けていてクリビツ。受付で名刺はないかと聞かれたが、私人としての参加なので個人情報は出さず。いくつかの展示内容をざくっと。

バーチャル・ライティングシステム
照明卓からの制御信号をもとにCGを制御するバーチャルスタジオシステム、と言えばだれもが思いつきそうなものであるが、照明卓からの信号と実際のムービングライトの動きにはずれがあるためこれだけでは不十分であるという事実がまず背景にある。このシステムではムービングライトの動きをロータリーエンコーダで抽出することにより、この問題を解決する。実使用実績あり。特許出願中とのことだがどのあたりが「発明」として認められるか個人的に興味あり。
投球軌跡表示システム「B-motion」
野球の投球をOA画面に点線状に描画するシステム。普通に画像処理を試みると、ボール以外の動いているもの、例えば打者とかミットなども抽出されてしまうのであるが、ボールのサイズや色などの条件より、ボールだけを抽出する。すでにバリバリに稼働実績あり。Windowsで動作。キャリブレーションなしに動作可能。サッカーに使えないかと聞いてみたが、とりあえず今後はゴルフへの展開を考えているとこと。
放送局バーチャルスタジオ装置
TK所属の技術者の手作りシステムで、他の地方放送局に売り込み中とのこと。ニューススタジオのリモコン→雲台間の信号を、手作りの分配機で抽出し、普通のWindows PCでCGを描画。地方放送局に配備されているようなリモコン雲台間の信号は、バーチャルスタジオでの使用は考慮されておらず、メーカーの保証がないことをしたところがミソ。この信号にはいやらしいノイズが乗っているそうであるが、ソフトウェアでの処理を仕込み、解決したとのこと。
HDV移動撮影システム
ラジコン戦車の上にHDVカメラを搭載し、危険な場所での撮影を実現する。免許不要の無線(400 MHz帯と聞いた気がする。)だけで実現。現状、モニタ用の映像の送り返しができるが、今後は25 MbpsのMPEG2-TSを無線LANで伝送するように拡張する。
連続可変NDフィルター
普通だと4段階くらいの切り替えになっているわけであるが、連続可変を実現する。言葉で説明するのがすごく難しいのだが、円周方向にフィルタの濃さがグラデーションになっているフィルタを2枚重ね合わせ、一方だけ回転させることによりフィルタの濃度を連続的に可変とできる。従来のカメラに実装するには機構的な課題があるが、CCUなどから操作できるようにすれば可能性が広がるだろう。
拠点局 新運行装置シミュレータ
ZKの技術者の手作り。地方放送局の送出装置(早い話一般的にいうマスター)の訓練用シミュレータ。アナログ放送では設定すべきパラメータが少なかったが、デジタル放送では音声モードのほか、アスペクト比、データ連動など、多くのパラメータの設定が必要。そこで、実機を使わず業務に習熟するため作り出された。13:9も選択肢にあるのね。東京発の番組では東京の設定を継承するとか、デジ・アナのサイマル放送ではデジタル側の設定だけでアナログ側にもいくらかパラメータ値が引き継がれるとか、とにかくデジタル時代の放送はいろいろ複雑なのです。
地上デジタル放送用フィールドアナライザ
プログラマブルな携帯用スペアナに、送信所の維持管理に必要な測定を行う機能を実装したもの。ワンセグのQPSK、12セグメントや4セグメント放送などの64QAMのコンスタレーションや、電波の質など無線局業務日誌に記載すべき値を簡単な操作で表示する。送信機に直結しても使えるし、アンテナを装着しフィールドで使用することもできる。
Vロケサラウンド収音システム
三研マイクロホンとの共同開発。サラウンドマイクには本来5つの出力があるが、ロケ現場では3つだけを記録し、編集室にて専用のマトリクスで復元する。一般的にロケ現場のVTRには4つの音声チャンネルがあるので、余った1チャンネルにガンマイクなりハンドマイクの音を入れることが可能。
ニュース用ダブルマイク
事故対策のため2つのマイクを仕込んだピンマイクで、現在稼働中。三研マイクロホンから発売されるとか発売されてるとか。(記憶が曖昧。)上下を向いているため、衣服の右側にも左側にも、さくっと取り付け可能。上の音と下の音との音色差がほとんどなく、2つをミキシングしても位相の問題が生じずほとんど音色が変わらない。実際、本場意中にマイクが事故ることはほとんどないというが、それでも万全を期するようです。
ワイヤレスFU
FUというのは協会さんの用語であり、一般的にはカフボックスとよばれているもの。最近の情報番組ではワイヤレスマイクを装着したキャスターが複数のセット間を渡り歩くものが多く、FUごと移動できるようにし、配線を簡略化するのが狙い。430 MHz帯、というともろアマチュア無線の周波数帯と競合するが、微弱電波なので免許不要。
付加情報送出システム
JGの技術者の手作り。普通のWindows PCで動作。HD放送で4:3の素材を流すときに左右に生じる額縁に天気予報などの情報を乗せる。テキストサイズは入力文字数によって自動的に調整されるなど、放送用に最適化されたUIを持っている。なお、4:3で見ている視聴者に配慮し、番組出演者は決してこれにて送出されている情報には触れないとか、ないと番組が成立しないような情報は乗せないなど、運用上の注意を伴う。
ロボットカメラIP制御システム
従来、放送局から遠隔にあるお天気カメラは、モデムが内蔵された特殊な電話機とともに備え付けられており、放送時間中だけ回線をつないで操作していたが、この制御回線をIP化した。IP網は災害時に規制の影響を受けにくいこと、安価であることなどメリットがある。制御のIP化による遅延も無視できる範囲であり、むしろHD化による画像の遅延のほうが問題になっている。(この遅延のためカメラの操作が難しくなっているという。)

以上、最先端の技術を持っており、さまざまな資源があり余ってるように思われていた協会さんであるが、現場の技術者の泥臭い工夫にて、効率化やコストダウンの取り組みが行われていることが実感できた。いや、不祥事が相次いだため、そういう面をアピールするために公開になったのであるが、メーカーの社員としても、考えさせられることが多かった。上には記さなかったが、野球中継のハイライトを、普通にFinal Cut Pro HDで普通のPower Mac G5で送出してたなんて驚き。プログラミングとか、ハッキングとか、免許不要の無線とか、民生品をいかにうまく使うかとか、どんなに時代が進んでも、技術者は、常に追い求めなくてはいけないのだと感じた。頑張れ、俺。